「おざなりな教育をしている」
「対策をなおざりにするな」
こんな会話は昨今の日常会話ではあまり使われなくなったかもしれませんが、
日本語には美しさとともに難しさがあります。
言語は時代によって変わってゆくものですが、
皆様は今ある日本語を正しく理解し、使うことが出来ますか?
本日は文字だけでもややこしい、このふたつの言葉のお話です。
目次
- どっちがどっち?それぞれの意味
- いつの言葉?語源と成り立ち
どっちがどっち?それぞれの意味
まず、この言葉自体を日常生活ではそこまで耳にしませんから、
それぞれの言葉の意味を理解しておきましょう。
『おざなり』
・・・適当に、いい加減に物事を済ませてしまうこと。
『なおざり』
・・・いい加減にしておく、放っておくさま。真剣でなく、心に深くとめないであっさりしているさま。
どちらもざっくり言えば「いい加減」という意味ですが、若干ニュアンスが違いますね。
「おざなり」は、一応やるんだけれども、「こんなんでいっか」くらいのノリで済ませてしまう、
責任感が薄い感じですが、「なおざり」はそれすらしない、的な・・・?
やりもせず放っておいて、
薄いどころか責任感が「ない」という雰囲気が漂っているように思われます。
・・・言いたい放題だな、私(^^;;(笑)
意味を比較したところで使い分けですが、
前者は「おざなりな教育」のように何かを施した状態のものに使えます。
「なおざりな教育」という表現は、もともと何もしていない状況などに使う
「なおざり」という言葉を使ってしまうので本来あまり正しくないことになるのですね。
「意味が伝わればいいだろう」という方も多いかもしれませんが・・・、
目上の方との会話など、いざという時には正しく使いたいものです。
いつの言葉?語源と成り立ち
字面までそっくりなこのふたつの言葉ですが、使われていた時期は結構異なります。
『おざなり』は漢字で「御座形」と書きます。
江戸時代には「座成(ざなり)」、「座敷成(ざしきなり)」として、
お座敷(=宴会)で演奏などをする人たちが「お座敷なりに」・・・
つまりお客さんのランクに合わせて、どうでもいいお客さんには
適当な対応をしていたということから転じて、
その場だけの取り繕った言動などを表す言葉として使われていました。
「お」は「ざなり」に敬語の「お」がついたものですが、
これは敬意ではなく敢えて敬語を使って皮肉った表現です。やはり江戸っ子は粋ですね。
一方『なおざり』はというと、そのルーツは平安時代にまで遡ります。
以前の状態が継続しているさまを表す「なお(猶)」に、
係助詞「そ」と動詞「あり」がくっついた「ぞあり」、
で「なおぞあり」→「なおざり」が語源と考えられています。
また漢字では「等閑」と書く事ができ、こちらは漢語になりますが意味は同じです。
平安時代に存在した言葉「なおざり」を拾って「おざなり」という言葉が生まれた、
という説もありますが、もともとは異なる語源からなる言葉ですから
否定される可能性もあれば、洒落を利かせる江戸時代の人々なら
やりかねないだろうという見解も・・・。
本当のことは誰にもわからないのでしょうけれど、そこが歴史の面白さであり、
美しさである・・・と筆者はなんだかスピリチュアルな気持ちに浸っております(笑)
若者の言葉が乱れている、若者が正しい言葉を使えない、
などとメディアに騒がれ叩かれる世の中ですが、
その当の本人達が正しい日本語を使えているのか・・・と、
筆者は常日頃疑問に思っておりますが、言語は進化し、退化し、また生まれてゆくもの。
とってもデリケートなものだと思うのです。
ふとした時に、ちょこっとだけ自分の日本語を省みてみるのもいいかもしれませんね。